大切だったもの

大切にしてきたものと向かい合うと、手放しづらいものには未練や愛着があるのだと気づく。
今の自分にとっては、抜け殻のようなものなのに、それでも自分をかたち取ってきたものだと思うと手放しがたいものだ。
娘が気に入っている「ずーっとずっとだいすきだよ」という絵本がある。
「ぼく」といっしょに育ったエルフィという犬が、少しずつ老いて、お別れのときが来た。だけど、ぼくは毎日エルフィに「だいすきだよ」と伝えてきたから、きっとエルフィに伝わっているはず。その想いが救いになっている。
最後に「ぼく」は、大好きなエルフィが使っていたバスケットを、小さな犬を飼っている少年にあげてしまう。
そのシーンを見て胸がギュッと締めつけられた。自分は抜け殻に縛られてしまう人間だから。
エルフィはもういない。だからこそ、バスケットを手元に残しておきたい。そんなふうに考えてしまう。エルフィが戻ってくるわけではないのに。
いつか、幸せな気持ちも、身を切られるような別れも、すこしずつ色あせて消えていく。
時の流れにつれ「たからもの」は、ただのモノになる。いつのまにか見返す頻度もへり、心の片隅にほこりをかぶりながら、そっとしまわれていく。
そんな寂しい終わり方なら、必要としている誰かに受け取ってもらいたいと考えた「ぼく」は、長生きしているだけの私より、ずっと大人だ。
悔いが残らないくらい、大好きだと伝えただろうか。何度も繰り返し使っただろうか。ただしまっているだけになっていないか。
大切だったものは消化不良な感情の抜け殻なんだと思う。
そろそろ、手放してしまおう。
ずーっとずっとだいすきだよ。そばにいてくれて、ありがとう。
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